「っ、」
どうしよう。
どうしたらいい?
分からない、分からなくなる。
グチャグチャになる思考と駆け巡る悪い方ばかりの想像。
不安で締め付けられる心臓が、いつもより速く動いていた。
ギュッと拳を握る。
少し長い爪が掌に食い込み、小さな痛みが身体を走った。
スッと息を吸って、今度こそドアを開けようとしたときだった。
「・・・大丈夫?」
温かくて、優しくて、柔らかい声が落とされる。
振り返らなくても分かってしまう声の主。
「っ、大島君」
振り返ると、心配そうな瞳で大島君が、私を見つめていた。
「ドアの目の前で、ボーっとしてたから・・・。
また、具合悪い?」
相変わらず優しい声に、私はぶんぶんと首を振った。
「ううん、大丈夫。
ちょっと、考え事しちゃってて」
「・・・そっか、無理すんなよ。
只でさえ病み上がりなんだし」
私が頷くと、大島君は目を細めた。
「・・・それに」
「それに?」
大島君の髪が光に透けて、いつもより茶色く見える。
気のせいか、大島君の表情までも輝いて見えた。
「勝つだろ、県大会」
真っ直ぐな、まぶしいくらいの笑顔で笑いながら、そう言った大島君はとても格好よかった。
心の中を埋め尽くしていた黒い感情がすうっと溶けていく。
「・・・うん!」
大島君の言葉に応えた私は、ちゃんと笑えていた。
自分自身の、笑顔で。

