部屋の中に、沈黙が流れる。
琉依は何度か口を開こうとして、躊躇って、という動作を繰り返していた。
声にならない言葉が溢れていく様に。
琉依が小さく息を吸って、「卯月」と私の名前を呼んだ瞬間。
琉依のポケットからオルゴールの音が流れ出した。
「ゴメン」
小さく謝ってから、琉依はケータイを取り出した。
メールが来たみたいで、しばらくケータイを操作しながら、ちょっと顔をしかめていた。
そして、ケータイをしまってから、申し訳なさそうに口を開いた。
「ゴメン、ちょっと用が入っちゃった」
私は首を横に振った。
「いやいや、むしろ、ありがとね。
琉依がいてくれて良かったよ」
琉依は少しだけ照れたように微笑んでから、私を真っ直ぐ見つめた。
「卯月」
そう言った琉依の声は凛としていて、綺麗だった。
「卯月が好きなのは、誰?」
「赤堀」
即答した私をみて、琉依はまた微笑んだ。
でも、その微笑みはさっきよりも明るくて、無邪気だった。
琉依は荷物を持って立ち上がった。
「じゃあ、私、帰るね。
ちゃんと治すんだよ?」
「うん、ありがと」
自然に笑えた自分に、やっぱり琉依がいて良かったって改めて感じる。
琉依はそっとドアを開けて部屋から出て行った。
壁にかかっているカレンダーに目を移す。
「・・・もうすぐ、県大会」
頑張らなきゃ、と心の中で呟いてから、私はゆっくりと目を閉じた。
目を閉じて、一番最初に浮かんだのは、
――やっぱり、アイツでした。

