「栞那ちゃん、何で遅れたの?」
「え……あ、うん。これ……」
乗り込んだバスの中。
隣に座ったくるみが不思議そうに聞いてきた。
席は2人掛けだから、唯真は私達の1つ前に座ってる。
隣は、七瀬か。
去年も同じクラスだったから、会話が止まって……なんてことはないと思う。
「目薬?買ってきたの?」
ますます不思議そうな顔のくるみに、私は苦笑いをした。
くるみの後ろから入り込んでくる外の光が、目にしみる。
「奥間さんがくれたの。バイトのお昼休みに買ってきてくれたんだって」
「へ?何で?」
「ほら、朝に少し話したって言ったでしょ?それで、私が普通の目薬しか持ってないの知って、ちゃんとしたヤツを買って届けてくれたの。
今日の予定だと、自分で買いに行く時間はないだろうからって」
「きゃーっ!唯真ちゃん唯真ちゃん!大ニュースだよっ」
立ち上がって前の席を覗き込むくるみを、必死で止める。
これじゃあ、七瀬にまでバレちゃうじゃん!
さっきのくるみ以上に不思議な顔をする2人を見て、私ははぁ、と溜息をついた。
「何?その、絵に描いたみたいな良い人……」
無理やり引き込んじゃった七瀬にも今までのことを説明したら、そんな言葉が返ってきた。
「とりあえずさ、それだけお世話になってるなら、何かお礼したいよね」
「お礼?」
「そう!だって、ここまでしてもらって修学旅行が終わったらサヨナラなんて……寂しくない?」


