2年3組乙女事情

“知らない人について行ってはいけません”

ってよく言うけど、すたすたと歩いていく彼を追ったのは、たぶん本能……



痛がる私の膝に容赦なくホースで水をかけた彼も

その後にふわふわしたタオルで膝を包んでくれた彼も


不思議なくらいキラキラしてて

まるで大好きなマンガのワンシーンを見てるみたいに



私はずっと、どきどきしていた。

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「なるほど。それは惚れるわ」


「何で!?」



話し終わって2人を見ると、そんな芸人さんみたいなやりとりが返ってきた。

関西弁ではなかったけどね。



「それで、彼のプロフィールは?」


「奥間[おくま]ミサキさん。この近くに住む高3で、受験生だって。海の家でのバイトは3年目」


「ミサキって、女みたいな名前だね。彼女は?」


「名前は言う時少し渋ってたから、本人も気にしてるのかも。てか、彼女いるかなんて聞けるわけないじゃん!初対面だよ?」



恥ずかしさを隠すつもりで、わたしは目の前にあったパンをかじった。

予想外に広がったバターの香りで、何だかほっとする。



「でも、それだけイケメンで、しかもこんな観光地でバイトしてたら……モテそうだよね?栞那ちゃん、ピンチじゃない?」


「ボク達、地元ここじゃないしね……」



そうなんだよね。

その時点で、これはもう叶わない恋って決定。



「まぁ、良いんじゃない?後で思い出して笑えるように、今のうちに彼を目一杯観察しちゃおうよ!
それに2人とも、今日の予定を思い出してみて?」



綺麗に微笑むくるみを見て、私は首を傾げた。

今日って……



「今日ってボク達、朝走った海でスキューバと海水浴じゃん」


「唯真ちゃんせーかいっ!てことで栞那ちゃん!くるみ達に彼を紹介してね」



キラキラした目で見てくるくるみを見て、私は恐る恐る首を縦に振った。