小さくそう呟いてから、すっと息を吐き出す。


そのまま、駅前だなんて気にしないで、思いっきり両手を突き上げた。



「うおっ」



肩にかけた鞄の重みが、首を攻撃してくる。


ま、こんなことも……あるか。



思わず小さく笑ったあたしの横を、知らないカップルが眉をひそめながら通り過ぎる。




もしも次に、あんな風にここを誰かと歩く時がきたら……



あたしはその人の家に、私物を置くような女の子になれたりするんだろうか。


着替えのジャージをためらいもなく置けるようになったりするんだろうか。



真っ黒なエナメルの……

パンプスくらいなら、置けるようになったりするのかな。



そうやって少しくらいは、可愛げのある人間になれるんだろうか。



そんなことを少しだけ考えながら……


気分を変えようと、思いっきり空気を吸い込んだ。



それが体の奥の方まで遠慮なく冷やしていったのを感じて、思いっきり後悔する。



「こんなとこ、いつまでもいられないやっ」



鞄をしっかりと肩にかけ直しながら、ピンクのスカートをひるがえす。



あたしは、明るい駅の中に向かって足を進めた。





~19番 渡部侑 END~