「え?」



びっくりして目を見開いた聡さんをちらっと見てから、私は何も言わずに背を向けた。



そのまま病室を出て、白い廊下を歩く。



病院って、妙に明るかったり暗かったりするから、ずっといると時間の感覚がなくなっちゃう気がする。



そのせいかな?


私自身の感覚も、少しいつもとは違う気がして……


ちょっとふわふわする。



その原因は、もしかしたら他にもあるのかもしれないけど……―――



「あっ、百瀬さん!ちょっと良いですか?」





“百瀬七瀬”



相変わらず、俳句でもラップでも何でもないくせに無駄に韻を踏んじゃった、格好悪い名前だと思う。



3文字になっても良かったから、“奈々”とか“菜々”とかを使ってくれればまだマシ
だったのに……。



だけど


いつかこの苗字を手放すことになるその日まで、だいぶ照れくさいけど胸を張って自分の名前を名乗りたい。



だって、この名前は……――――



「はい! 何ですか?」



看護士さんに呼び止められて、私は笑顔で振り返った。





~16番 百瀬七瀬 END~