私は、不思議そうな顔をする聡さんをまっすぐ見た。



「今日私を助けてくれたのは、血も繋がってない人だったわけだし」


「七瀬ちゃん……」



微笑んだ聡さんと目が合った。


細くなった優しそうな目から、何となく視線を外す。



「そう思えるくらい、“プラス”だったの。今日のことは」


「プラスって?」


「え、あ……こっちの話!
てか、いい加減その、“七瀬ちゃん”ってゆーのやめてくれない?呼び捨てにしてよね。
……一応、父親なんだから」


「七瀬ちゃん?」


「だから、“七瀬”だって言ってるでしょ!?」



思わずそう叫んで、私は鞄を持ち上げた。


こんな所、何かもう、いたくない。



「帰る。明日の小テスト、満点取りたいから」



そう言いながら、勢いよく立ち上がる。



「もうすぐお母さん来るはずだから、それまで待ってて。その頃には、処置も全部終わって落ち着いてるはずだから。
……一緒にウチに帰って来たら良いでしょ」


「ありがとう。勉強頑張って、七瀬」



見下ろすと、聡さんは相変わらずにっこり笑ってた。



こんなにすぐ、さらっと呼び捨てにできちゃうなんて……


無職でも、やっぱり人生経験豊富な大人なんだよね。



高校生の私には、まだ少し難しいから――――



「当たり前でしょ、…………お父さん」