2年3組乙女事情

「あたしらしいって何?」



とげが刺さったみたいに険しいありすの声に、小さな笑いがこみあげてくる。



「初めてまともに話した頃、あたしのことを“救い様のないバカ”だって断言したのはどこの誰?あんたでしょ?
“気持ち悪い”言い捨てたのは?あんたでしょ?
リア女で孤立してたあたしにずかずか踏み込んできて、ここまで変えるきっかけ作ったのは誰?峯岸美海!あんたでしょ?」



両手を腰に当てながら一気にまくしたてたありすは、あたしの腕をさっきより強くつかんだ。



「あたしから言わせてもらえば、今の峯岸美海の方が100倍バカだし、気持ち悪いよ。
お互いに大事に思ってるんでしょ?今までずっと、その気持ち守って来たんでしょ?だったら最後まで、しっかり守り合ってみなさいよ!
新聞部の間抜けより何倍も頭良いんだから、方法くらいすぐに思いつくでしょ」


「でも……」


「“でも”なんて言っても何も変わんないでしょ。穂高先生とあたしが味方に付いてるのに、それでも不十分だって言うの?」



そう言うと、ありすはにやりと頬を釣り上げた。



綺麗な顔にハマりすぎてるその表情に、思わず胸がぐっと引き寄せられる。



……さっきの瑤と、同じ表情だ――――



こんなにも堂々と、正面からあたしを支えてくれる人がいるのに、あたしは何を怖がってたんだろう?



いろんなことを完璧にこなして、先生達にも信用されてきたあたしが


社会はできなくても、ずっと学年2位をキープしてきたあたしが


こんなにも強い味方のいるあたしが


他の人達に負けるわけがない。



……他でもない、大切な、瑤のことで――――



「ぼーっとしてる時間なんてないんだから。行くよ、峯岸美海」


「ってか、フルネームで呼ばないでよ。バカ」



にっこり微笑んでから立ち上がると、満足そうに笑ったありすがドアに向かって走り出した。