もちろんね、途中で何回も「もう切らないで」って言おうと思ったの。



でも茶色い髪のお兄さんの中には、何か出来上がりのイメージとか、こだわりとかがあったみたいで……


その真剣そうな表情を見たら、何も言えなくなっちゃったんだよね。



「他の高校ならアリだけど、ウチでそのショートは目立つかもね。
何て言うの? 丸みたいなショートはよく見るけど、清夏のはひし形ってゆーか……」


「確かに、襟足こんなにすいて欲しくなかった」


「だったら、それをちゃんと言わないとダメじゃん」


「うーん……」



はっきりした返事をしないあたしを見て、七瀬が呆れたみたいに静かに言った。



「清夏。あたしは、相手の気持ちを考えて、相手を立てようとするのは、清夏の良いところだと思う。
でも、大事なことはちゃんと言わないとダメだよ。相手ばっかりじゃなくて、自分のことだって気遣ってあげないと」


「うん、そうだね」



七瀬には、こんなこと言わせてばっかだなぁ……。



相手の顔色を窺って、自分の言いたいことを言えないのはあたしの悪い癖だと思う。



何かを頼まれると断れなかったり


何かを取り合いになっても相手にすぐに譲ったり……


町で配ってるティッシュとかチラシとか、絶対にもらっちゃうし。



あたしのそんな性格をわかってか、一緒にいる時は七瀬がサポートしてくれるし、今日みたいに注意だってしてくれる。



……その頻度が高すぎて、ちょっと申し訳ない気もするんだけど。



そう思ってることさえも、七瀬の好意を無駄にしちゃうんじゃないかって思って言えない。



「おはようございます」