結局あたしには、まだ兄と接する勇気はない。


同情されるのが嫌だから、自分の話を簡単に人に話す勇気もない。


でも、自分から何も行動を起こさないままで、こうなればいいのに……なんて願う、他力本願みたいなことはもうやめた。


そんなバカみたいなことのために、自分の嫌いなものを身につけるのも、やめた。


だって、好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いだから仕方がないでしょ?





だからあたしは、あたしに負担の掛からない程度とペースで。

ゆっくりと、でも確実に、自分から動いていきたいと思う。















いつもの如くつまらない授業が終わって、みんなが教室からいなくなり出した頃、あたしは教科書類を鞄に詰め込む。


バイトに行こうと立ち上がると、目の前には峯岸美海が立っていた。


「これ」


差し出された小さなピンクの箱。


中には、リボンのモチーフのピアスが入っていた。


シルバーの短いチェーンの下、ピンクのラインストーンで作られたリボンが可愛い。



驚いて彼女を見ると、峯岸美海は視線をそらした。


「昨日見かけて……似合うと思ったから。今のが外せるようになったらつけてみて」


窓から差し込んだ薄い赤の光に照らされたからかもしれない。


峯岸美海の頬は赤く染まっていた。


「ありがとう。峯岸美海、良い奴だね」


「フルネームはやめて。美海でいいから……ありす」



あたし達は、静かな教室で、静かに笑い合った。



夕日に照らされてより輝きを増した、ピンクのピアスと共に……。





〜1番 雨宮ありす END〜