やっぱり、峯岸美海も他の連中と同じ反応をするのか。


そう思って少し落ち込んでいたら、予想外の言葉が聞こえた。


「可哀想なくらいバカだよね」


「え?」


「いくら働いても、勉強しても、お兄さんはそんなあなたの姿を見てないんでしょ。
だったらいくらやっても無駄じゃない。
お兄さんに直接接触しない限り何も変わらないことくらいわかってるでしょ?
もちろん、持ち物を水色にしてもね。
だから、雨宮さんは救い様のないバカ」


彼女は、相変わらずの抑揚のない声で、まっすぐ言い切った。


これは、新鮮な反応だなー。


「峯岸美海って、結構毒舌だね」


「正論を言っただけだし。ってか、フルネームで呼ばないで」


そう言った峯岸美海は、眉間にしわを寄せていた。


初めて表情を崩した峯岸美海が面白くてわらったあたしを見て、しわが更に深くなる。


「ところでさ、家計が苦しいのに、何で髪染めたり、ピアスの穴開けたりしてるわけ?」


これ以上からかわれるのが嫌だったのか、いきなり話をそらされた。


「あぁ。髪は近所の美容師のおばさんの実験台として引き受けただけだからタダなの。
メイクも試供品だし。
お金かけてるのって実際ピアスだけだよ。
中卒だって嘘ついて、少し遅い時間までバイトさせてもらってるから、格好も派手にしないと他とつり合わないしね」


峯岸美海は、驚きでぽかん、とした顔であたしを見ている。


何か言いたそうに、口をぱくぱくしていて可愛らしい。


「それに、あたし可愛いから、お洒落しないともったいないじゃない?」


追い打ちをかけるようににやっと笑ってそう言うと、彼女は呆れた、と言って立ち上がった。


「髪型もナチュラルなメイクも似合ってるよ。ピアスの水色は気持ち悪いけど」


そう言い捨てて、峯岸美海は保健室から出ていった。