ほんの少し前までは、本気でお人形になりたいって思ってた。



何も考えなくてもずっと笑っていられて、綺麗に笑っているだけでみんなに喜ばれるお人形。


上辺だけしか評価されないお人形。



それは、育った家のおかげで

何でもそこそこできれば褒めてもらえるあたしの状況に、少し似てる気がしたから……



だから、心がないっていうあたしとの違いに惹かれたの――――



でも、中村さんはあたしの“心”を、正面から評価してきたのよね?



最初のピアノがダメで、今日のピアノが良かった理由はそこにあったはずだから……。



褒められた出来事よりも、文句を言われた出来事の方を幸せに感じるなんてありえない……。



でも、この幸せを知っちゃったら、もうお人形になんてなれないわ。




1人小さく笑ったあたしに、芽依が不思議そうな顔をした。


そんな芽依をちらっと見てから、顔を上げる。



「ありす! 美海! 清夏!
そんなゆっくり歩いてないで、早くこっちに来なさいよ!遅刻するわよ!」


「え? 何でいきなり呼び捨てなの?」



くるっと振り返ってそう叫ぶと、委員長が眉間にしわを寄せて言った。



「今日からあたし達はこう呼び合うの! 変な遠慮とか気遣いとかそーゆーのは、面倒臭いから全部なしっ!」



3人にびしっと人差し指を突き付けて、あたしはにっこり笑った。


人を指すなんて、失礼だったかしら?


まぁ、別に良いわよね!





じりじりする夏の太陽の下。


あたし達はやわらかく、思いっきり笑い合った。





〜8番 藤堂舞花 END〜