「疲れたー…」



結局、補習は康介が一人だけ盛り上がって、ある意味不発に終わった。そして今は康介と廊下を歩いている途中。




「なあ惠瑠、俺これから部活に行くから、稽古にでれないってじっちゃんに言っといて」




「わかった…って、まだ部活に顔出してんの?」



惠瑠は少し驚いた。3年である惠瑠と康介はこの前部活を引退したばかりだ。まあ、惠瑠の場合は家が剣道場で自分も教えていたから、剣道部には入っていたがあまり顔を出していなく幽霊部員みたいなもんだった。しかし、康介はうちの道場で稽古しながら少林寺拳法部にも入っていて、かなり強くて全国に行くほどだった。

ほんと、よくやるよ。




呆れながらも実は密かに何でもこなしてしまう康介を惠瑠はずっと尊敬していた。ま、たまに生意気なのが傷だけどね。




少し苦笑して、惠瑠は急いでいる康介にバイバイと手を振ると、じゃーな、と走っていってしまった。康介の大きな背中を私はただ小さくなっていくまで見つめていた。別に永遠の別れってわけじゃないのに、何故かほんの少しだけ寂しさを感じた。









―――わかっていたのかもしれない







自分が康介にもじっちゃんにも、もう会えなくなるということを――…




しかし、そんな事を深く考えてない惠瑠は教科書が全く入っていなく、財布とタオルしか入っていないよれよれのバッグを振り回して廊下を駆け出した。





「やばっ、稽古始まる」




腕時計を見つめ駆け足になり、学校をでて駅へ向かった。急いでいる訳は、補習のせいで稽古に間に合いそうにないからだ。早く行かないと、こりゃじっちゃんに叱られるぞ!!




じっちゃん、こと足立健三郎は惠瑠の祖父であり「足立剣道場」の七代目でもある。歴史ある道場で生徒も多く、年齢も様々だ。それに、じっちゃんは歴代の中でも一番強くて、惠瑠はいつもこてんぱにやられていた。見た目はかなり威厳があり稽古も厳しい。だが、そんなじっちゃんをとても誇りに思っている。



幼いときに両親を事故で亡くし、じっちゃんが親代わりとなって育ててくれた。剣道をやれと言ったのもじっちゃんだった。「゙女゙だからこそ自分の身ぐらい自分で守れ」って、今思えば無茶苦茶の事を言っている。そのおかげかどうかは分からないけれど、メキメキと腕は上達し、女だと思えないほどの強さをもった。その結果、師範代だ。



今では惠瑠に勝てる相手はほとんどいない。それだけ強いのだ。しかし普段ぼーっとしているから周りの人はそんな姿は想像できないらしい。






ふと、惠瑠は走るスピードを緩めた。少し跳ばしすぎたせいで息切れ状態になってしまったからだ。急ぎすぎたかな…、でも駅はもう目の前。でももう走りたくないなあ。結局、惠瑠は駅までのあと少しの距離は歩くことにした。