――惠瑠の前には2人の男がどん、と座っておりジーっとこちらを見ている。いや、1人は睨んでいる。





睨んでいる男は暫く口を閉じていたが、シンとした空気を切るように口を開いた。







「芹沢さん、このような話しは聞いておりませんが」



言葉遣いは丁寧だが視線は鋭いし、こめかみなんてピクピクしてる。





ありゃ、相当キレてんな。





「土方くん、俺も気まぐれで連れてきたわけじゃねーんだ。別に隊に入れろとは言ってない、女中でもなんでもコキつかってやってくれればいいんだ」




芹沢は鉄扇を手元で遊びながら口を吊り上げた。




土方はピクリと眉を動かして、どう考えても気まぐれにしか思えないだろ、と今までの芹沢の行動からそう思わずにはいられなかった。




話の話題で当の本人であるはずの惠瑠はただ黙って2人の様子をすました顔をしながら見ていた。しかし、もう1人黙っているほうの男が気になり目を向ける。




男は困ったように眉を下げ、何やら考えている様子だった。









―――この男は確か







「近藤、勇」



ぽつり、呟いた。




その場にいる惠瑠以外の人間はピタッと動きが止まり、惠瑠を見た。しかし、惠瑠はそんなことは気にせずただ近藤をジッと見つめていた。





「俺を知っているのか?」


「うん、アナタ有名だもん」



「…そうか」




近藤はこの張りつめた空気に似合わない笑顔をした。見た目は厳ついが、本当は優しくて寛大な心の持ち主なのであろう。





パチッ、と鉄扇が鳴る。




「なあ近藤さん頼むよ。なに見た目はこんなんだが日本人だと言い張れば問題ないだろう」