「……足立」



虚しい担任の声が教室に響く。今は夏休みだから生徒もいない。だから余計よく耳に入る。


つか、あっちー





「なに、いっちー」



いっちー、とは担任のあだ名。ま、名字が市原だから必然的にそうなるわけだ




「お前……、俺を苛めてんのかあァァ?!」




「はぁ?」



唐突に怒りだすいっちー。なんか目に涙溜まってるし


おい、私がいつ苛めたんだよ。
別にボッコボッコに潰した覚えねーよ。



頭をボリボリと掻きむしって、とりあえず暑さで溶けそうな脳をなんとか働かせる

苛めたって言っても思い当たる事ないし、つか考えんのもめんどくさくなってきた





「いや、わかんない」


「お、お前なあ」



惠瑠の考える気無しの声から市原はもう涙が今にも爆発しそうだ。





「ハハハハッっ!!」


少し離れた席からバシバシと机を叩いて大口で笑う奴が一人。二人の会話をずっと聞いていた男子生徒がいきなり笑いだした。




「んだよ康ちゃん、笑うとこドコにあったんだよ」





惠瑠は一人の男子生徒、腐れ縁である康介を睨んだ。