身長の高い男は、ずかずかと惠瑠に向かって歩き出した。



惠瑠の体には冷や汗が伝う。なんていうんだろう。この人、怖い。私は昔から勘が鋭くて、その人を見ただけでどれだけ強いかだいたいわかる。







――この男、強い





一瞬見ただけでそう確信できたのは、この男から放たれるオーラがどこか人を寄せ付けない感じがしたからだ。ただ者ではない。




男は惠瑠の目の前に来ると、上から下まで見定めた。惠瑠はただ黙って男の顔を見ていた。視線を外したら負けだと思ったからだ。昔じっちゃんに言われたのだ、視線を先に外したほうが負けだ、と。





男はそんな強気な惠瑠を見てフッと口を吊り上げて、惠瑠の顎をクイッと上に持ち上げた。





「お前が噂の異人とかいう小娘か。見たところ異人っぽいとは思えねーがな」





面白そうにクククと笑いじろじろと惠瑠を見る。






「…私のこと知ってるの?」




「まあな」





思っていた以上に自分のことは広まっていたみたいだ。少し心配になる。






「名はなんという」




「あ…えーっと……うわっ!」




男が惠瑠の名前を聞き出そうとしたら、いきなりお妙が惠瑠の腕を引っ張って男から遠ざけようとした。惠瑠は驚いてよろけたが、男が反対側の腕をとり、お妙を突き飛ばした。






「お妙さん!」




「邪魔をするな、俺は今こいつと話しているんだ」




地の這うような低い声をだし、さっきの笑みは消え、お妙を睨む。恐ろしさからお妙の肩がビクリと揺れる。






「す、すんまへん…芹沢さん。けど、この子は遊女と違いますねん…、どうか腕を離したってください」





お妙は怖がりながらもよろよろと立ち上がり男のほうを見て言う。