木に寄りかかって俯いていた椿は、私の呟きを聞いて顔を上げ目があったが、その顔は憂いに満ちていた。胸が締め付けられ椿の胸に飛び込みたくなったけれど、その衝動をグッと拳を握り締める事で抑え、私は極力明るく振る舞った。


「久しぶり、奥さんと仲良くやってる?」


「魁梨…」


「あの奥さんカワイイわよねー」


「違うんだ!!」


椿の怒鳴り声に、今まで堪えてた何が音をたてて切れてしまった。


「何が違うのよ!!
 あの妖精と仲良くやればいいじゃない!!
どうせ私とは住む世界が違うんだら!!
悔しかったら森から出てきなさいよ!!」


そう、まくし立てると椿は大きく息を吐いて


「…魁梨がそう願うなら…」


「何!出られないくせに、バカな事言わないで!!」


「魁梨の願いなら、僕にはバカな事じゃないんだよ」


そんな事を言いながら一歩、一歩、森の外にいる私の方に歩いてきた。

妖精が森の外に出るのは死を意味する。
その事を知っていたのに、言ってしまった自分に後悔して止めに行った。

でも、その時すでに椿は自分の近くまで来ていたのだ。

私は急いで森の中に連れて行ったけれど、遅かったのか椿は苦しそうに肩で息をして、木の根にもたれかかる様に座り込んだ。


「…ははは…ダメだったね…」


「バカ!!何、笑ってんのよ!」


椿は持っていた首飾りを震える腕で持ち上げ


「…これ…渡した…かった……あの時…の…約束…」