この男、偽装カレシにつき

橘センパイに振られたあと。
私を抱きしめながら、ゆっくり好きになってくれればいいって言ってくれた大野センパイ。


「時間をかけて、もう一度大野センパイのことを好きになるって決めたの」


私の言葉に、純ちゃんは顔をしかめる。


「なろうと思って好きになれるほど、人の気持ちって単純じゃないと思うケド」


純ちゃんてば、相変わらず手厳しい。


「まぁ、他人の恋路にこれ以上口出すのはやめとくわ」


やっと純ちゃんの追及から解放された私は、ホッとしてコーヒーに口をつける。


だけど。
いつの間にか橘センパイの甘ったるい味に慣れちゃった私には、純ちゃんの炒れたコーヒーはひどく苦かった。