この男、偽装カレシにつき

「…橘センパイと別れたのは分かった。
だけど、何でここに来るのよ」


純ちゃんは私を見て、呆れたように言った。


目の前のテーブルに置かれたマグカップからは、炒れたてのコーヒーのいい匂いが漂ってる。


ここは龍センパイの部屋。


世界中のカップルがラブラブな時間を過ごしてるに違いないイブの夜。


しかも、今夜はセンパイのご両親がお留守という、純ちゃんにとって最高のシチュエーション。


「そんなつれないこと言わないでよ」


私は口を尖らせながらつぶやく。


私だって、自分がお邪魔虫なのはよーく分かってますとも。


「まぁまぁ」


さっきまで黙り込んでいた龍センパイは、純ちゃんの剣幕を見兼ねたのか、ようやく口を開いた。