この男、偽装カレシにつき

「大野センパイは、何も言わないんですね…」


センパイに手を引かれて、私はその大きな背中に向かってぽつりとつぶやいた。


橘センパイに振られた。
雪乃さんのとこに行っちゃった、なんて一方的にまくし立てたのに。


そんな突っ込みどころ満載な私に、どうしてこんなに優しくしてくれるの?


「うーん。
それは…」


大野センパイは少し考えるようにした後、私を振り返って、


「今、口を開いたら『俺と付き合いなよ』って言葉しか出て来ないから」


困ったような笑顔を浮かべてそう言った。