この男、偽装カレシにつき

「映画、面白かった?」


ブースの照明が付き、大野センパイが私を見た。


「は、はいっ」


ほとんどろくに見てなかったクセに、適当に相槌を打った私に、


「本当?
心ここにあらずって感じだったけど」


大野センパイは苦笑した。


うわ、バレてたんだ…。


「そろそろ行こうか」


慌てて俯いた私にそう言って、大野センパイは座席を立った。



あのキスのあと。
大野センパイは私をしばらく抱きしめた後、私の手を引いてシアターブースまで連れて行ってくれた。
上映中もずっと私の手を握ってくれた。


映画の内容なんてほとんど頭に入ってこなかったケド、センパイの手がずっと私を包んでくれていたのは分かってる。
そして、今も…。