この男、偽装カレシにつき

いつかと同じ香りに包まれる。


ああ、そうだ。
橘センパイが雪乃さんと浮気してるのを目撃したときも、こんなふうに抱きしめてくれたんだっけ。


ううん。
今思えば、あれは浮気じゃなくて本気だったのかもしんない。


女タラシで有名な橘センパイだけど。
いい加減なことばかりやってるわけじゃないこと、他の誰は知らなくても私は知ってるから。


センパイが今まで私に注いでくれた愛情はきっと嘘じゃない。
ただ、雪乃さんへの愛情の方が大きかっただけ。


きっとあのときにはもう、こうなるって決まってたんだ。


大野センパイの爽やかなシャンプーの香りが、私の頭の中に残った橘センパイの香りを消していく。


「俺がいるよ」


大野センパイはそう言いながらゆっくりと私の肩を掴むと。


私の頬にそっとキスをした。