この男、偽装カレシにつき

そっか。


そういえば橘センパイを映画に誘ったとき、大野センパイも一緒にいたんだもん。


カップルシートで映画を見ることも、その時間帯だって知ってて当然だった。


「さっきまでダチと会ってて、近くを通り掛かったから、冷やかしてやろうと思ったんだけど…。
電話して正解だったな」


センパイはそこで一旦言葉を区切ると、真面目な顔で続けた。


「隼人どこ行ったの?
こんな日にチエちゃん一人にして、アイツ何やってんの?」


悔しいな。


橘センパイの名前を聞いただけで、こんなにも胸が締め付けられるなんて。


「振られちゃいました」


私はできるだけ軽いノリでそう言った。