この男、偽装カレシにつき

「何で…?」


何で大野センパイがここにいるの?


私さっき、何も言わずに電話を切ったのに。


「チエちゃんの居場所くらいお見通し」


センパイは真顔でそう言うと、私の手から奪ったチケットを係員に渡して一人でカップルシートに向かって歩き出してしまった。


嘘っ。
もしかして大野センパイってエスパー?


なんて、大野センパイの超能力を半ば信じかけながら、慌ててその後ろを追うと。


「なんて冗談。
チエちゃんたちがこの映画館に来るのは知ってたし、さっき電話越しに館内アナウンスも聞こえたしね」


大野センパイは眉を潜めた私を振り返って、苦笑しながら種を明かした。