この男、偽装カレシにつき

私は大きく深呼吸して、バッグの中から純ちゃんにもらったチケットを取り出すと、その表記されたシアターブースに向かう。


めちゃくちゃ高いカップルシート。
無駄にしたら純ちゃんに怒られちゃう、なんて。


顔中、涙でメイクがぐちゃぐちゃのクセして、現実的な自分にちょっと笑えてしまう。


ブースの前で、係員さんにチケットを渡したとき。


「お一人でご利用ですか?」


改めて聞かれて恥ずかしくなる。


一人でカップルシートで映画を見るヤツなんていないよね。


ましてや今日はイヴだし。
恋人に振られましたって公言してるようなもんじゃん。


どうしよう。
「連れは後から来ます」的なことを言って見栄を張るべき?


なんてまごついていたとき。


「いや、二人で」


突然背後から聞こえた声に振り返ると、肩で息をした大野センパイが立っていた。