この男、偽装カレシにつき

「おいコラ。
どこ行くつもりだ?」


センパイに手を引かれて、私はつんのめるようにして足を止めた。


「ここじゃないのかよ」


呆れ顔のセンパイが指差した先には、目的地の映画館があった。


「えっと…。
ここです、ここ!」


「何ボケっとしてんだよ。
…いつものことだけど」


なんて、また悪態をつくセンパイに、私はいつもみたいに突っ込むことができない。


牛丼屋を出てからまだいくらも経っていないのに、私は伝言を消去してしまったことをもう後悔していた。