この男、偽装カレシにつき

センパイに掴まれた手首がジンジンと痺れる。
静かな部屋に二人の吐息がやけに響いて、私を見下ろすセンパイのビー玉みたいな瞳から目が離せない。


何コレ…。!
何で体が動かないの?
これが噂の女タラシの毒?
ついに私にも毒が回ってきたってこと?


「この間つけてやったキスマーク消えてんじゃん…」


首筋をツツツッとなぞるセンパイの長い指に、胸がドクンッと跳ね上がる。


本当だったら、こんなヤツ蹴り飛ばして逃げ出してるはずなのに。
ショジョ喪失の危機だっていうのに、どうして私の体は抵抗できないの?
どうしてこんな男に、胸の高鳴りが止まないの?


ヤーバーイー!
貞操の神サマ、助けてー!


まるで金縛りにあったように動けない私に、橘センパイが容赦なく近付いてくる。
もう駄目、ヤられるー!
私が思わず目を伏せたとき。


バチン!
おでこに衝撃が走った。