まー、今日はそこまで動いてないし、いいか。
あんまり断ると、“支配者は、実は弱い”なんて噂が流れかねないし。
だから、俺は断ることをあまりしない。
ただし、喧嘩の前に必ず聞くことがある。
「いいけど。一つ、聞きたいことがある」
「んー?何だあ?」
喧嘩出来る、とすっかり機嫌のいいソイツ。マジでコイツ、馬鹿。
そして、あたしは一人の名前を口にした。
「…オトナシって…知ってるか?」
その質問に、男は顔を歪める。
知らない、ということだろうか。
「悪い、聞いたことねえな」
「……そうか。分かった」
「じゃあ…もう、いいだろ?」
そう言って男はあたしに殴り掛かってきた。どんだけ喧嘩好きなんだよ。
「ちっ、仕方ねえな…」
あたしは男の拳が顔に当たるスレスレで交わした。
コイツ…意外と速い。
それに、武器を使ってない所から見て卑怯な奴じゃなさそうだ。
相手の攻撃を交わし、鳩尾に一発───入れようと思ったが交わされた。
へえ、結構やるんだな。でも…、
───バキッ「……っ」
あたしには敵わない。
男はあたしの回し蹴りを食らい、地面に倒れた。
「……勝負あったな」
「クソッ、つえーよお前」
「お前だって中々だった。じゃあな」
そうしてあたしは、男の元から去った。
今日の収穫は、ゼロか…。
