そんな平穏な光景を横目に見ながら。

「ふぅうぅうぅ…」

丹下 龍太郎(たんげ りゅうたろう)は静かに息を吐き出す。

空手着、裸足。

間もなく三月になり、春の足音も聞こえ始めるだろうが、朝夕が冷え込む事には変わりない。

それでも道着一枚という出で立ちは、武道の修行以外の何物でもなかった。

相変わらずの『立禅』の姿勢。

しかし吐き出す息は、決して修行終了の溜息ではない。

空手の呼吸法『息吹』とも異なる。

武道を嗜む者さえあまり知らないであろう、珍しい呼吸法だった。