風華の空


「殴られろって言われて殴られるようなバカはいないだろ」

眼の前で不良が拳を振り上げる姿が見えているはずなのに、余裕の表情で笑っている冬夜に怯んだように動きが鈍った。

「何、言ってんだよ…!」

その瞬間を冬夜が見逃すはずがなかった。

後ろから腕を掴んでいる奴の脇腹に、僅かに身体を捻った反動を使って肘を打ち込み拘束を解いた。

さらに、殴りかかってきていた奴の拳を横に払い足を掛け床に転がす。

残りの2人も殴りかかってきたが、先に向かってきた奴の腕を掴んでもう1人に向けて突き飛ばすと2人は縺《もつ》れるように転がった。

立っているのが冬夜だけになると図ったようにチャイムが鳴った。

「もういいか?そろそろ1限目も始まるし、諦めろ」

そう言うが早いか、冬夜は不良たちに背を向けて歩き出していた。

出て行くためにドアを開けようと手を伸ばした瞬間。


「くっそおぉ!!」

床に倒れていたはずの1人が冬夜に向けて力任せに椅子を振り下ろした。