それにしても、冬夜は自分が女だという自覚がないのだろうか…
龍は目の前で長い髪を芝生に広げて眠っている冬夜を見て深々とため息を吐いた。
人が来ることが滅多にないといっても、龍のように偶然通りかかるということも考えられる。
それに、最近は暖かくなったとはいえまだ4月も始まったばかりで気温は決して高くない。
こんなところで長時間寝ていては風邪を引いてしまうかもしれない。
そんなことを考えた龍は、芝生の上に投げてあった携帯を拾うと、起きないように細心の注意を払いながら冬夜を抱き上げた。
「…う~……」
抱き上げた拍子に冬夜が身動《みじろ》ぎをして寝ぼけたような声を出した。
その声に、龍の動きがピタリと止まる。
しばらくそのままの体勢で動けなかったが、それ以降冬夜が動かないのを見て、ホッと息をつくと改めて冬夜を抱き直した。
もう一度冬夜が起きないことを確認すると、出来るだけ揺らさないようにゆっくりと歩き出した。
向かう先は保健室。
あそこは保健医が不真面目で保健室にいることが少ない上に、ほとんどの生徒がそのことを知っているためわざわざ保健室に行こうとするものは少ない。

