午前8時10分 2年1組


「お、おはよう。悠妃くん!」

早い時間のためほとんど人のいない教室。

そこで早々に机に伏せて眠っている生徒に、たった今教室に入ってきた女子生徒が声をかけた。

その声に反応して身動ぎしたかと思うと、悠妃《ゆうき》と呼ばれたその生徒は、ゆっくりと眠そうな顔を上げた。

「あぁ…おはよう」

寝ぼけた声と柔らかく微笑む姿に女子生徒は頬を染めるが、微笑んだ本人は気づいていないようだ。

「あ、あの…」

「どうした?」

なかなかその場から動かず、何か言いにくそうにしているのを見て、何か用事でもあるのかと思い言葉の続きを促してやる。

「実は、2組の人が悠妃くんに話しがあるって言ってて…」

女子生徒の様子から、相手が友好的な内容で呼び出されたわけではないことがわかる。

気は進まないが、行かないと教室に押しかけてくることは明らかだ。

「悪かったな、わざわざ。今度からは用があるときは自分で呼ぶように言っとくよ。」

そこで一旦言葉を切って椅子から立ち上がると、悠妃は女子生徒に向かってふわりと微笑んだ。

「ありがとう」

そう言って教室を出ていった悠妃は知らないだろうが、その後しばらく女子生徒は悠妃が立ち去った方向を見つめていた。