キャンバス

ざざっ…ざざっ…

目の前には大きく波が寄せては戻り、寄せては戻りを繰り返している


ここまで、歩いてきた自分の足跡しかこの浜には残っていない…

まるで、この地球には自分しかいないのではないかと錯覚させるほど、突き刺さるような空気と、波の音が響いている


昔付き合いだした頃、彼と真冬のデートで海へ来たことがあった。

こんなふうに突き刺さるような風でもなく、彼と手をつなぎたわいもない話をしながら砂浜を歩いた。

寒いと言う、私の手を彼はつなぎ、温めてくれた。
波の音も心地よく、まるで二人だけの秘密の場所とでも言うような音色だった。

肩に雪が落ち、彼が手袋で払って落としてくれた


淡く色が付いていた思い出も、今では儚く、幻のような2年間だった。

それは、現実だったのかそれとも自分自身のジオラマのなかでのできごとだったのだろうかと、錯覚してしまう。

目の前海はモノクロのように感じるのは、そんな思いを引きずっているからなのだろうと感傷的になったり…


イヤホンから同じような曲が流れてきている。

あなたは今何をしていますか?

そう歌手が歌っているフレーズはまるで自分自身が、彼に問いかけたいことなんだと思う。