空は、快晴。
ユークイン王国王女の暮らす王宮のもと、その話はされていた。
「王子、その縁談は、承知できませんわ」
凛とした声で、彼女――ソーン・ベアトリス・ユークインは言った。
拒否の答えを返されたのは、ソーンの目の前に座る、王子らしい美しい装いをした金髪碧眼の男性。
端麗な顔を悲しみの表情に染め、声を荒げ彼女に問う。
「なぜ…なぜですか姫!私は、貴女の美しさのみに惹かれただとか、身分に惹かれただとか、そんな理由で縁談を設けたのではないのです!」
王子は立ち上がると、ソーンに歩み寄る。
そして跪き、手をとった。
「姫、私は…」
「王子、ごめんなさい」
しかしソーンは、その手から自分の手をするりと抜いた。
そのまま流れるように手を王子の頬に添え、悲しげな声色で謝罪の言葉を送る。
「わたくしはまだまだ未熟な姫。
だから、まだしばらくは、国のことや政治を学んでゆきたいのです。
わたくしは民のためによき姫でいたい…そして将来は、よき女王に成りたい…だから…」
ソーンは、ふっと目を伏せた。
かすかに潤んでいるように見える。
王子の好意を断る彼女の方も、辛いのだろうか。
「…――だから、わたくしはきっと、貴方様を愛すことはできない。
わたくしの愛は、すべて民のために捧げていたいのです」
言い終わると、ソーンは伏せた目を上げ微笑んだ。
王子は口を開き、何かを言おうとしたようだが、何も言わず口をつぐんだ。
「…そうですか、白薔薇の姫…」
呟き、立ち上がる。
手で顔をぬぐい、王子は微笑を浮かべながらソーンを見た。
「姫は立派でいらっしゃる。私は、自分の想いを貴女に押し付け…本当に愚かなことをしました。どうかお許しください」
「いいえそんな…お気になさらないで。わたくしの方こそ、貴方様からの縁談を断ると言う無礼を…」
「それは本当に残念です…ですが、国を考えている貴女こそ正しい。お恥ずかしい話、私は自国など頭の隅に置いていました。
姫を見習い、政治に努めなければ!」
「ふふ、応援しております」
明るく笑う王子を見て、ソーンもにこりと笑った。