「なあ」

廊下を歩いていると、不意にロゼットが口を開く。

「何か」

「そろそろ疲れてこないのか?」

「何がだ」

「"華やかな薔薇の主従"を演じるの」

ソーンが立ち止まる。
ロゼットもそれに合わせて立ち止まった。

「演じるとはどういう意味だ?」

詰問ではなく、軽い問い。
ロゼットは少し考え、口を開いた。

「なんていうか、普段の自分を隠すの」

ロゼットはかんで含めたつもりだったが、ソーンは解(わか)っていないようで、首を傾げじっとロゼットを見ていた。

ちょっと可愛いかもしれないと思ったのは、まあ余談。

「おまえが疲れたということか」

「いや、俺は疲れてないよ。ソーンがってこと」

「なぜ私が?」

「なぜって…ほら、俺とか特に親しい人の前のソーンと、それほど親しくない人の前のソーンを分けたりするから」

逆に混乱してしまうだろうかと思ったが、理解したようで「ああ」と呟いた。

「何ともない。苦辛とも思わぬ」

「そうなの?」

「慣れたのだ」

ソーンは髪を指先で玩(もてあそ)びながら、そう答えた。
表情は特に曇ってはいない。
ただの本音であり、本当に慣れたから、これが当たり前に過ごせているのだろうが。

ソーンは髪を弄るのをやめ、ロゼットを見た。

「つまらぬ事を訊くな、おまえは。次に意味のわからない質問をしたら、口に煉瓦(レンガ)を突っ込んでやる。…わかったか?」

脅しではなく本気であろう言葉に、ロゼットはブンブンと頭を縦に振った。