ベランダを隅々まで見ても、人のいる気配もない。私を見つめているのはぽっかりと浮かぶ真ん丸の月だけだった。



『驚かせてすみません。…わたくしは得月院。重虎―――竹中半兵衛重治の母にございます』


耳元でそう言う声は優しかった。
…記憶の中の私のお母さんもこんなだったな。



「って!た、竹中さんのお母さん!?」


『えぇ。重虎をあなたの家に送ったのも、元の世に戻したのもわたくし。…その節は、重虎が大変お世話になりました』


一瞬揺らめいて見えた月は、まるで私に頭を下げているみたいだった。


私は呆然としながらも、指輪をはめている左手をぎゅっと握って夜空に浮かぶ月を見つめる。