春の匂いが鼻をくすぐる。

そして私の心を躍らせる。

「萌ッ! 高校生だよっ」
「おちつけっ」

 そう! 今日から憧れてた高校生!

制服、校舎、すべてが私の手に……。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁああ! 桐生先輩! まさかこんなに早く会えるとは! 運命でしょうかっ」
「「「「桐生先輩ぃぃぃぃい!!!!」」」」

 (っるせーな。何が桐生先輩だよっ! こっちは、今、あこがれに至ってんだよっ)

「ありゃすごい人気だね……」
 
 萌が目を細めて向こうを見ている。萌もあの中に入ってしまうのか……。

「あんた今、何考えた? 言ってみろ佐々木夏芽」
「ひっひいぃぃぃなっなにも言っておりまえんっ」
「よろしい……」

 私たちは、靴から上履きに履き替え、渡り廊下に渡った。 

一つ空いていた窓から、花びらが舞い降りてくる。

「私たち、高校生だよっ」
「わかった、わかった」

 そのとき、私はふと考えた、「なにか、今までになかったことをしなくていいのか」と……。

「夏! 行くよ」
「あっ! うん」