そんな、感情私にあるはずがない。
そうに決まってる。
私はこの感情に固く鍵を掛けた。
「…私、もう帰る。」
ガタン
荒々しく席を立ち上がる。
「待てって、そんな音立てたら気付かれるだろう…!」
「こんな変装して顔も見えないのに気付くわけないじゃない。」
私は引き止めるコウさんに構わず、足を出口へと進めた。
私は気付かなかった。
その纏わり付く視線に、
熱い熱い視線に。
見覚えの無い路地に出る。
それでも私は前へと進んだ。
後ろから誰かが追いかけて来てるのがわかる。
どこまでもしつこい男。
「もう、追いかけてこないで。」
私は後ろを振り返らずに走った。
もし、後ろを振り返ればその間に捕まってしまうから。


