「真衣!そんなに見ないでよ」
「なんで?」
「気づかれるじゃない」
 店のおばさんが水を持って来たので二人ともおでん定食を注文した。

「ふーん。なるほど」
「なに?」
「なんか、意外だなあ」
「だから、言ったでしょ。期待しないでって」
「結子みたいないい女がなんで?って思うけど」
確かに見た目は男前という感じではない。体は細身だが、銀縁の眼鏡をかけて、もみあげからアゴまでヒゲをはやしている。服装もどちらかと言えばダサイし、髪の毛もボサボサだ。
 とても若い女が興味を引くような外貌ではない。

「ホントにおじさんばっかりね。よく、こんなところに毎日来てるわね」
 真衣は店内を見渡して呆れた顔をした。
今まで、その男しか頭になかったので周りの状況は気にしていなかったが、改めて店内を見渡すと真衣の言うとおりかもしれない。
 自分たちが場違いなところに来ているような気がした。

「ホントに何を一生懸命読んでいるのかしらね」
 男は今日もテーブルの上に置かれた本を真剣な顔をして読んでいる。
「難しそうな本よ」
「聞いて来ようか?」
「バカ!変なことしないで、って言ったでしょ」と思わず大きな声を挙げてしまったので、二人とも慌てて周りを見渡した。

「あーこわ」と真衣が小さく言った。
真衣はおでんを食べながら「おいしいわね、このおでん。また、来ようかな」と言った。
(やっぱり、連れて来なけりゃよかった)