「すごく気になる人がいるんだけど」
「へえー、だあれ?」
「知らない人」
「?・・・。何それ」
「だから、わからないのよ」
「どういうこと?」
「一目惚れしちゃったみたい」
 職場の同僚で親友の真衣は呆れたような顔をしながらコーヒーカップを啜った。
 結子は短大を出てから大病院で看護師として3年間働いていた。夜勤もありハードな仕事だったがそれなりの報酬は貰えた。
 しかし、病院内の医師中心の世界に嫌気がさして2年前に退職した。彼らの見下ろしたような態度が許せないと思った。
 真衣は大学の文学部を卒業したが就職難で希望に叶った仕事には就けなかったようだ。
 長引く不況が彼女の人生を大きく変えてしまったようだ。
 そんな二人は生活するために贈答品の販売店で店員として働いている。

「ルーメンとアンモニア?」
「うん。知らない?」
「アンモニアって、おしっこに入っている成分じゃないの?」
「そうよね」
「ルーメンって、なんだろう?ブランド品にあったような気もするけど。ラーメンの見間違いじゃないの?」
「そんなわけないよ」
「思い切って『何読んでるんですか?』って、聞いてみたらいいじゃない」
「そんな。知らない人にそんなこと聞けないわ。」
「じゃあ、私が聞いてあげようか?」
「え?」
「私もその食堂に行ってあげる」
「ダメよ」