歳はいくつかな?
 そんなことを考えている自分が不思議に思えた。

 その日、結子は店に入ってテーブルにつくと焼き魚定食を注文した。一つ隣のテーブルに座っていた男も焼き魚定食を食べていた。
 結子はテーブルに一人座って黙々と夕食を食べている男の姿をいつものようにチラリチラリと見ていた。
 男は箸を動かし、口を動かしながらしきりにテーブルの上に置かれた本を覗きこんでいる。この食堂にいるときはいつも本を読んでいた。
(何を読んでいるんだろう?)

無心に読んでいる本が何なのかずっと気になっていた。
 結子はお手洗いへ行くように装って立ち上がり、男のテーブルの横を通り過ぎながら読んでいる本を見下ろした。
(何これ?)

 字が小さくてよく見えないが、ぎっしり詰まった文字の間にグラフらしいものがあるのが見えた。
 少なくとも低俗な雑誌ではないようだった。
 結子はトイレの鏡に映る自分の姿を見ながら考えた。
(覗き込むわけにはいかないし・・・。でも、もう一度チャンスがあるわ)

 自分のテーブルに戻るまで、今度はゆっくりと歩きながら少し覗き込んだかもしれない。
 見出しらしい大きく書かれている文字が目に留まった。
(ルーメン、アンモニア、・・・。???)