「獣医さんって。物言わない動物が相手だから洞察力が必要だって。何かの本で読んだことがあります」

「そうかもな」

「スゴイですね」

「全然。経験を積めば自然に備わっていくもんだよ」

「そうなんですか。でも、人間のお医者さんが患者さんをじっーと見ていたら恐いでしょうね」

「ハハッ。逃げ出すだろうな」

「ですよね」

「人間はどこが痛いか?って、聞いたらわかるじゃない」

「そうですよね」

「言ってくれれば、随分助かるんだけどなあ」

 男はため息混じりに言った。

「人間の場合、レントゲン撮ったり、血液検査したり、いろんな検査してますけど、獣医さんって、聴診器一つでわかるんですね」

「そんなことないよ。わからない時はいろんな検査もするし」

 結子は子供の時に獣医さんに憧れていた。

 なりたい職業だと周りの人にも言っていた。

 でも、勉強ができる方ではなかったので諦めるしかなかった。