結子が目を開けると病院のベッドの上に横たわっていた。ゆっくりと周りを見渡すと真衣が側に座っていた。

「結子。大丈夫?」
「真衣?」
 言葉を発すると胸と頭に痛みを感じた。
「ああーよかった」
「病院にいるのね?」
「そうよ。大変だったんだから。救急車で運ばれたのよ」
「そう」
「脳震とうだったみたい」
「そう。今、何時?」
「夜の8時5分ね」と真衣が腕時計を見ながら言った。
 浅井の診療に同行して牛舎で牛に蹴られて意識を失い、この病院に搬入されたようだ。

「浅井さんは?」
「え?」と真衣が怪訝な顔をしながら言った。
「浅井さんも来てくれたの?」
「・・・。浅井って、誰?」
「え?あの浅井さんよ」
「結子、大丈夫?」と真衣が心配そうな顔をした。
 
 真衣が知らない筈はない。
「私、牛に蹴られて意識が無くなって、ここに来たんでしょ?」
「そうよ」
「だから、浅井さんの診療に一緒に行って牛に蹴られたのよ」
「何言ってるの?」
「何って」
「意味がわからない」
「浅井さんのこと忘れたの?」
「もしかして、おかしくなったの?」
「からかわないで。怒るわよ」
 しばらく、押し問答になった。