ようやく目当ての薬が見つかったようで、注射器でそのバイヤル瓶を吸い始めた。
(あんな大きな注射器で注射するのかしら?)

 注射器はおそらく50mlだろう。
結子は看護師なので見た目の大きさでだいたいの容量はわかっていた。

 男は注射器を持ちながら結子の前をまた無言で通り過ぎようとした。

「あのう、それ、注射するんですか?」と堪らずに聞いた。

男は振り返ると私の存在に気づいたような顔をしながら
「ああ、すぐ終わるから」と言い残して牛舎の中へ消えていった。
 
大きな注射器を刺された牛は嫌がって暴れていたが、
男は機敏に反応しながらゆっくりと注射液を押し込んでゆく。

 牛は3回ぐらい後ろ足で蹴り上げたが、男は見事に身をかわしていた。

(スゴイ!なんて身軽なの?)