「つるや食堂」の駐車場に駐めてある紺のサーフを見ながら「ターゲットはもう来てるわね」と真衣がボソリと言った。
 食堂の入口の前に来ると真衣の服を引っ張りながら「ねえ、変なことしたら絶交するわよ」と言った。
 真衣は微笑みながら「まかせといて」と言うなり店の戸をガラーっと開けた。
 店に入ると真衣は一目散にその男の隣のテーブルに座り、結子に手招きをしている。
(あのバカ。あんな近くに座って)

 結子は仕方なくそのテーブルに近づきながら心臓が高鳴るのを感じていた。男に近くづくほど自分の鼓動も強くなっていく。

「うーん、今日は何しようかな」と真衣は壁に貼ってあるメニューの札を眺めている。
 真衣は隣のテーブルをチラリと見て「ねえ、何する?トンカツ定食?」と聞いた。
 結子も隣のテーブルを見ながら「うん、それでいいわ」と答えた。
 男はトンカツ定食を食べていた。

「そうか」と真衣がコップを置きながら言った。
「え?」
「磨けば光るっていうことね」
「何が?」
「彼よ。そういうタイプに見えるけど」と結子の顔を見上げるように言った。
 言われてみると確かにそうかもしれない。今の外貌はとても格好がいいとは言えない。
 でも、小綺麗にして、いい服を着ればいい男に変貌しそうな感じはする。

 男は相変わらずテーブルの上の本に夢中になっている。本を読んでいるのか、食べている
のかどちらが主なのかわからない。