男が牛を見ている時の目は真剣そのもの。

一点の曇りもなく、何かを必死に探っているような目。

 男は牛の体を前から横から後ろからとあちこちから鋭い目で一通り見渡すとおもむろに白衣のポケットから聴診器を取り出して耳にかけた。
 
そして、白黒模様をしている牛の皮膚の上に聴診器の丸い部分を押しあてると考え込むようにして何かを聞いている。

(何が聞こえるんだろう?)

 今度は聴診器をあてながら右手の中指でポンポンと牛の体を叩いている。

(人間でもやってるわ)

 結子は牛舎の真ん中あたりにいる病気らしい牛を診察しているその男の姿をじっと見つめていた。

 どうやら診察が終わったらしく、農家のおじさんに忙しく手を動かしながら診察の結果を説明しているように見える。

 60代と見えるそのおじさんは真剣な表情で時々頷きながら男の話を聞いている。

男は牛舎から出てきて結子の前を無言で通り過ぎると、乗ってきた白い軽自動車のバンに戻り、荷台に無造作に積んである医薬品を漁り始めた。