「そういえば、もう春休みだけど、春休みは何かすんの?」
「うーん・・・短期のバイトでもしようかな?」


私がそう言うと、陽子はガトーショコラをもぐもぐ食べながら、私に合いそうなバイトを挙げていく。




「コンビニ」
「えー。高校のときやってたしなぁ~」
「じゃあケーキ屋は?去年のクリスマスあたり一緒にやって・・・あ、・・」



陽子は、気まずそうに私から一瞬視線を逸らす。






クリスマス。




私にはそのときの記憶はもうない。
私が事故にあったのはクリスマスの後すぐで、年の瀬だった。



「・・・・でもほんと、なくなったのが記憶1年でよかったよ」
「・・・えっ?」



陽子はフォークをガトーショコラの乗ったお皿の上に置きながら、寂しそうにそう言った。



「だってさ、もし運が悪ければ頭打ってもっと大変なことになってたかもしれないし、死んでた可能性だってあるんだよ?・・・そう考えると、すっごいラッキーだったよ、アンタは。」




「・・あ・・・・」





そういえば、そうなんだ。
私は大学に慣れて進級することばかり考えてたけれど、本当はもっと大事になっても不思議じゃなかったんだ。



記憶は約1年くらい無くなってしまったけど、
身体のほうは全然平気で、足と手首を捻挫したくらいだった。

ただ、数日眠り続けていたらしいのでサークルの皆はすごく心配していたみたい。




・・・ただ、今でもときどき病院には異常がないか検査を受けてはいるけれど。







「・・・アンタは目が覚めたばっかりのときの記憶、あるの?」
「いや、それがね・・・ぼんやりとしか。誰かが心配そうに私のことずっと見てたのは覚えてるんだけど」
「・・・そっか。・・本当に、皆心配したんだからね?」
「うん、心配かけてごめんね」




ふるふる、と陽子は首を横に振ってから、緩やかに笑顔を取り戻す。




「さ、辛気臭い話はやめやめ。おいしいケーキがあるんだし、食べよ!」
「うんっ!」





それから私たちは、ファミレスを後にして帰宅した。