こないだのキスのことは、木原にとってはどうでもいいことだったんだろうか?
アタシはあのことばかり気にしていたけど、次に会ったときはいつもと同じ対応だったから驚いた。



(逆になんかリアクションしてよー・・・)



なんて、考えててもしょうがないんだけどね。


「──あ、何買ってくればいいか聞くの忘れた」
「そういえば。・・・まぁ定番といえば焼きそばとか、フランクフルトじゃない?」
「そうだなー」


海の家の、お店に入ると木原は何を頼むか悩みながら注文をする。
アタシはその横に立って、一連の仕草を見ていた。



「・・・俺の顔に何かついてる?」



アタシの視線に気付いたのか、木原が珍しく恥ずかしそうにそう言った。


「えっ。・・・いや、別に??」
「ふーん。・・・ほら」

木原が、ビニール袋を2つアタシに渡す。
中からはほんのり湯気が立っていて、ソースの香ばしい香りがする。


「たこ焼き?」
「そ。皆好きだろ。・・・たぶん」



海の定番っちゃ定番だけど。



「・・・ねぇ、木原」
「んー?」


木原は、店員さんから商品を受け取りながらアタシに答える。



「こないだのこと、怒ってない?」
「・・こないだ?」


木原が、首をかしげながらいう。
その表情は、何のことかと言った顔だ。


「・・・いい、分かんないなら。・・でもなんとなくごめん」
「お前はまた、訳わかんねー奴だな。・・・ま、いいけど」



うん、ごめん。

アンタが何も言わないから。
それを良いことにアタシもっとわがままになっちゃうよ?


なのに、木原は何も言わないんだね・・・





「桜井、なんつー顔してんだよ。お前は笑ってなきゃダメだろ」



木原が、あのときと同じようにアタシの顔を覗く。
たったそれだけなのに、心臓がどくんどくんと飛び跳ねてうるさい。

「うっさいわね、アンタに笑うわけないでしょ」
「へいへい。」


冗談っぽく、木原が受け流す。



「早く戻んねーとな、みんな待ってるぞ」
「・・・うん」



木原が、少し笑った。
アタシはもう少しこの時間が続けばいいのにと思った。



早く戻らないと、・・と分かっていても。
少し、ほんの少しだけ、・・彼の歩幅が狭く遅くなりますように、なんて願っていた。