「全く、木原ってば嘘ばっかり!」



アタシは智也の学校に傘を届けるために歩いていた。
さっきの木原の発言にちょっといらだってしまう。




(アイツが置き傘なんてするわけないじゃない。それに佐崎の講義終わるの何時間後だと思ってんの?)




「よ、桜井!」



!?



アタシは驚いて、声にならない声を上げる。



「きっ、…き、木原っ!?」




何でそんな驚いてんだ?と言いたげな木原を睨みつける。
そりゃ今の今まで考えてた奴が急に現れたら驚きもするわよ!


「っていうか、ずぶ濡れじゃない!!何してんのよ!?」
「あ、傘ねーから」
「そんなの見たら分かるって!」


アタシは慌てて、自分の傘に木原を入れる。
木原は身長が高いから、アタシは手を伸ばさなきゃいけない。


それを見た木原が、さりげなくアタシから傘を奪った。
・・・っておい。



「悪ィな」
「悪いと思ってないでしょ」
「んなことないって。さんきゅな、桜井」

なんていうか、ほだされてる気がする。
こいつは人の扱い・・・いや、アタシの扱いをよく知ってる気がする。




唐突に、さっきのいつかの言葉を思い出す。








───陽子は・・・もしかして、木原くんのことが好きなの?









そんなわけ、ない。
親友の好きだった人を好きになんて、なるわけない。



なのに、どうしてコイツが隣に居るだけでこんなに嬉しいんだろう。
そんな自分に、いらつく。



「智也に持ってくのか?その傘。」


急に話を振られて、アタシはハッとする。


「あ、ああ・・うん。」
「そか。・・・俺も一緒に行っていいのか?」




(・・智也は喜ぶだろうね。)





何てったって、木原は智也の憧れだ。


昔、アタシと智也の買い物中に、いつかと木原のデートに遭遇した。
智也は いつかとは何度も会ったことがあるが、木原とは初めてだった。


その後4人で会話をした。
帰り際、智也はアタシに言った。”文人って、カッケーな!”と。


まぁ、木原はルックスも良いし、クールで気が利く性格からか、女子からはモテる。
アタシはそんな所あまり見たことがないけど、よく友達にどんな人か聞かれるからモテるんだろう。


そんなわけで、智也は木原に会うのを楽しみにしていた。





(・・・もう、あまり会うこともないんだろうけど)







いつかと木原が付き合っていない今、会う機会は少なくなった。