ニャー、という猫の鳴き声にハッとして顔を上げた。



1匹の猫が俺の手にすりすりと頬擦りをしている。
餌がほしいのだろう。


「・・・・、」


この猫をみると、あの日のことを思い出すな・・・。









この猫とは、俺が大学に入学した初日に出会った。

ささと一緒にどのサークルに入るか考えているとき、加奈先輩に無理やり連れられこのサークル棟にやってきた。
その後、新入生歓迎会が始まった。



皆お酒を飲んでテンションもあがってきた頃、隣に居た女の子の様子がおかしいことに気付いた。
顔が青白く、震えているように見えた。



『大丈夫か?』



そう声を掛けると、さらさらの黒髪を揺らして、俺を見上げた。
可愛らしい顔つきとは裏腹に、具合の悪そうな表情に俺は気付いて、彼女を部屋から連れ出した。


外はもう真っ暗で、夜といっても良い時間帯だった。




風に当たって、随分具合が良くなったのか、彼女は少しずつ喋ってくれるようになった。




『えと、助かりました・・それと、ごめんなさい』
『いや、気にしないでくれ。ていうかむしろ助かった。俺、ああいうテンションに付いていけないから』


そう言って部屋を親指で指す。
それを見た彼女はくすくすと笑い出した。



『木原くんって、クールそうに見えてお茶目ですね』
『お茶目って・・・・』
『・・・あれ?・・・』


彼女が不思議そうに首をかしげた。


『?・・・どうした?』
『耳澄ましてみてください。・・・聞こえません?』

いたずらっぽく、彼女が笑う。




『あ・・・』





みぃ、みぃ、と猫が鳴く声が聞こえた。


『大学の敷地内からですかね?』
『行ってみる』


鳴き声のするほうへ歩いていく。
そこはサークル棟の後ろ、裏庭のような場所だった。


そこの茂みにダンボールに入った子猫が1匹、震えながら鳴いていた。



『捨てられたのかな・・・』
『・・・・だろうなぁ』


でも大学の敷地内で捨てるって、一体どんな奴だ・・。


『かわいいなぁー。』
『ああ・・』



子猫を抱き上げる。
みぃ、と小さく鳴いた。



『木原くん、猫好き?』
『こう見えて意外と・・』
『あははっ、別に意外なんて思ってないよ!猫可愛いし』





可笑しそうに笑う彼女は、子猫よりも可愛く見えた。